頚椎ヘルニア
頚椎ヘルニアの原因と症状、治療について
あなたは首、肩、腕に痛みが生じて病院を受診したところ、「頚椎にヘルニアがありますね。これが原因です。」と言われたのではないでしょうか。
初めて「頚椎ヘルニア」と診断された方は、頚椎ヘルニアってどのような病気かわからず不安になりますよね。
頚椎ヘルニアとは頚椎椎間円板が変性して亀裂が生じ、中から髄核が飛び出している状態のことをいいます。
頚椎ヘルニアが出きると痛みやしびれ、筋力低下などの症状が必ず起きると思われがちですがそのようなことはありません。
飛び出した髄核に頚神経が刺激され2次的な要因が加わり、首、肩、腕のこりや痛み、しびれ、筋力低下、歩行障害などが起きるるのです。
この2次的な要因のことを知ることが、頚椎ヘルニアの症状を改善する鍵になってきます。
今回は頚椎ヘルニアの原因と症状、治療について詳しくお伝えします。
1.頚椎ヘルニアとは
頚椎ヘルニアとは、頚椎椎間円板の中心にある髄核が、椎間円板の周囲組織の線維輪を突き破って飛び出し、頚神経に影響を与え様々な症状が起きる疾患のこといいます。
20代以上の若年層から高年齢層まで、幅広い年代で発症リスクがあります。
最近では、パソコン、スマートフォンの過度の使用により、若年齢層の方の発症が増加しています。
頚椎ヘルニアはレントゲンには移らないので、ヘルニアが生じているか確認するには頚椎のMRI撮影が必要です。
2.頚椎ヘルニアが起きる主な原因
2-1.加齢による線維輪の劣化
線維輪(椎間円板の周囲の組織)は椎間円板と椎骨の間にある血管から栄養や水分を受け取り、機能が維持されています。
椎間円板は、朝起きて直立したときに椎間円板から水分か流出し、夜睡眠をしているときに機能血管から水分が戻り弾力性が保たれています。
しかし、20歳後半頃から栄養血管が退化し減少していくため、十分な栄養と水分が補充できなくなり機能が維持できず劣化していきます。
線維輪が劣化すると亀裂が入ったり剥離したりして脆弱になり、その脆弱な部分が壁の役目を果たせなくなるため、圧力に耐えられなくなって髄核(椎間円板の中止にある組織)が飛び出し頚椎ヘルニアとなります。
2-2.ストレートネック
正常な頚椎は軽く前彎を呈しています。その形状が真っ直ぐや後彎になることをストレートネックといいます。
頚椎にかかる圧力は頚椎の前彎と椎間円板の2つで和らげています。
その2つの内、頚椎前彎がストレートになると圧力が椎間円板にかかることになります。その圧力に線維輪が耐えきれなくなり、髄核が外に飛び出し頚椎ヘルニアとなります。
2-3.頚椎に負担をかける日常生活や事故
椎間円板の劣化は20歳後半から少しずつ進んでいきます。
その間に頚椎に負担のかかる仕事を日常的に行っていたり、スポーツをしたり、事故に見舞われたりと、強い負担が頚椎にかかってくると、線維輪が圧力に耐えられなくなり髄核が飛びだし頚椎ヘルニアとなります。
3.頚椎ヘルニアの種類
頚椎ヘルニアには、髄核の突出した形状から様々な種類があります。
3-1.膨隆型
髄核が線維輪の脆弱した部分に移動しても外壁は保たれている。椎間円板は膨れているが髄核は脱出していない。
3-2.脱出型
髄核が線維輪から脱出しているが後縦靱帯が壁となり後ろに膨れている。まだ、脊柱管内には飛び出していない。
3-3.穿破脱出型
髄核が線維輪、後縦靱帯を突き破り、髄核が脊柱管内に飛び出している状態。
3-4.遊離脱出型
髄核が線維輪、後縦靱帯を突き破って脱出し、脱出した一部分が元の髄核から分離し脊柱管内を移動している。
4.頚椎ヘルニアの症状
頚椎ヘルニアの症状は頭、首、背中、腕、下半身に症状が現れます。
4-1.脊柱症状
脊柱症状は線維輪に亀裂や剥離が生じたり、椎間関節炎が起きたりすることによって周囲の神経が刺激され筋肉が緊張することによって起きます。
・首こり、肩こり、首の痛み、背中の痛み
・前胸部の痛み
・緊張型頭痛、後頭部痛
4-2.神経根症状
神経根症状は頚神経の4番目以下の神経根に刺激が加わると症状が起きます。
・肩から腕にかけての痛み、だるさ、むくみ
・間欠的の起きる腕や手のしびれ
・持続的に起きる指先のしびれ
・一側性の上肢、胸部の筋萎縮、上肢の筋力低下、握力低下、感覚障害
4-3.自律神経症状
頚椎ヘルニアが原因で頚部の筋肉が緊張すると、自律神経の副交感神経の働きが弱まり自律神経が乱れ症状が起きます。
・浮遊性のめまい
・手の冷え
・低気圧接近による身体の不調
・全身の倦怠感 など
4-4.脊髄症状
脊髄症状は頚椎ヘルニアによって脊髄が圧迫されることによって起きます。
・脚のつっぱり感、歩行障害
・尿コントロール障害、尿失禁など膀胱直腸障害
・両側の手足のしびれ
・ボタンの掛けはずし困難、筆記困難など手指の巧緻機能障害
・両側上肢の筋力低下、握力低下、感覚障害
5.頚椎ヘルニアの症状が起きる原因
5-1.こり、痛み、しびれの原因は頚椎ヘルニアがあるからではない
始めにお伝えしたいのが、頚椎ヘルニアのこり、痛み、しびれの症状は頚椎ヘルニアがあるから起きるのではないということです。
頚椎ヘルニアが神経を刺激し筋肉が緊張したり、自律神経が乱れたりすることによる二次的要因が起因して起きるのです。
なぜ、そう言えるのか?
頚椎ヘルニア小さくするには手術を行い強制的に取り除くか、マクロファージなどの力を借りて長い時間をかけ小さくなるのを待つしか方法はありません。
しかし、頚椎ヘルニアを手術で取り除かなくても、また、大きさが変わらなくても生じている痛みやこり、シビレは適切な治療を行っていると2ヶ月から半年くらいで症状が緩和されてきます。
これは、筋肉の緊張など2次的な要因が改善されたために症状が緩和したからだといえます。
このことから、頚椎ヘルニアがこり、痛みの原因のすべてではないと言えるのです。
また、頚椎ヘルニアが存在している方すべてに症状が生じるわけではありません。
症状がなくてもMRIを撮影するとヘルニアが存在している方はたくさんおられます。
これを「無症候性ヘルニア」といいます。
5-2.頚椎ヘルニアの首こり、肩こり、痛みの原因
頚椎ヘルニアによって神経が刺激を受けると筋肉が持続的に収縮し血流が滞り酸欠状態になります。これが首こり、肩こりの原因です
酸欠状態になった筋肉は危機的状態に陥りプロスタグランジン、ブラジキニン、セロトニンといった発痛物質が血液中の血漿から発生します。
この発痛物質が知覚神経のポリモーダル受容器に取り込まれ痛みの電気信号となって脳に運ばれ痛みと認識されます。
5-3.頚椎ヘルニアで腕に痛みが起きる原因
頚椎ヘルニアで起きる腕の痛みには2つの原因が考えられます。
それは、トリーがーポイントによる関連痛と腕の筋肉が持続的に収縮することによる筋肉の酸欠状態です。
トリガーポイントとは筋肉の一部分が硬く塊まった状態になり、その部分を押すと飛び上がるような痛みが誘発されるポイントのことをいいます。
頚椎ヘルニアは慢性的な首、肩こりや寝違えが続くため筋組織が傷つき、トリガーポイントが形成されやすくなります。
トリガーポイントの特徴は痛みの原因と違うところにも痛みが現れることで、これを関連痛といいます。
肩の筋肉にトリガーポイントが形成された場合、腕に関連痛の痛みが現れます。
5-4.頚椎ヘルニアで起きる腕、手のしびれの原因
頚椎ヘルニアで生じる腕、手のしびれには、しびれを感じる時と感じない時がある間欠的に起きるしびれと指先に持続的に感じるしびれがあります。
間欠的に起きるしびれは頚椎よりも末梢部分の斜角筋、鎖骨付近の筋肉が緊張し、神経や血管が圧迫されたのが原因と推察されます。
一方、指先に持続的に生じるしびれは頚椎に近い部分で、骨やヘルニアなどが神経を刺激し起きているしびれだと推察できます。
5-5.筋力低下、握力低下、感覚障害、歩行障害の原因
頚椎ヘルニアによって生じるこのような症状は、運動神経、感覚神経が頚椎ヘルニアによって完全に圧迫されたために、神経の機能が失われ麻痺したのが原因です。
6.頚椎ヘルニアの治療について
頚椎ヘルニアの治療は、80%ほどが投薬やリハビリ、鍼灸治療などの保存療法で行われます。
保存療法は頚椎ヘルニアに直接作用するわけではありませんが、痛み、こり、しびれなどのほとんどの症状が緩和されていきます。
手術は、筋力低下、握力低下、感覚障害、歩行障害など、神経麻痺が起きているときに行われます。
6-1.頚椎ヘルニアの保存療法
頚椎ヘルニアの保存療法には投薬や注射、電気治療、頚椎牽引といった西洋医学と鍼灸治療、漢方治療といった東洋医学の治療があります。
保存療法では頚椎ヘルニアを小さくすることはできないので、筋肉の持続的な緊張を緩和し自然治癒力で症状を改善する目的で行います。
筋肉の持続的な緊張状態が改善されれば、血管内から発痛物質が産生されなくなり痛みが緩和されます。
適切な治療を受ければ、2ヶ月~半年で徐々に頚椎ヘルニアの症状が改善されていきます。
6-2.西洋医学の治療
西洋医学は鎮痛薬やブロック注射で痛みを感じにくくして、傷んでいる筋肉が自然治癒力で改善するまで様子を見る治療です。
リハビリは電気治療、頚椎牽引、マッサージなどを行い緊張している筋肉を緩める目的で治療が行われます。
6-2-1.頚椎ヘルニアで処方される主な薬
・NSAIDsのお薬(非ステロイド性抗炎症薬)
・神経性疼痛緩和薬(リリカ)
・筋弛緩薬(ミオナール、テルネリンなど)
・ビタミン12製剤(メチコバール)
・抗不安薬(デパス)
6-2-2.リハビリ治療
・頚椎牽引
・電気治療
・温熱治療
・手技療法
6-2-3.神経ブロック注射
神経ブロック注射は局所麻酔薬を神経の近くに注射をすることによって、一時的に神経を麻痺させ痛みの信号を脳に伝わらないようにする治療法です。
頚椎ヘルニアでブロック注射が行われるのは、痛みが強いときで星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック注射などが行われます。
6-2-4.手術
手術は筋力低下、感覚障害など神経が麻痺をしている状態の時に行うことが多くあります。神経を圧迫しているヘルニアを取り除く手術や頚椎にアプローチして神経の通り道を広げ圧迫を緩和する手術が行われます。
神経の圧迫を取り除けば神経の機能が戻り筋力低下、感覚障害などは改善されますが、しびれは改善されないことが多くあります。
主な手術方法は次の通りです。
・PLDD:経皮的レーザー椎間板減圧術
・miniPECD:経皮的内視鏡下頚椎ヘルニア摘出術
・ACDF:前方除圧固定術
・PECF,MECF:内視鏡下頚椎椎間孔拡大術
・PECD:経皮的内視鏡下頚椎椎間板摘出術・前方アプローチ
6-3.頚椎ヘルニアの最も効果的な治療(鍼灸治療)
鍼灸治療とは鍼とお灸を使って身体に刺激を与え、人間の自然治癒力を高めて身体を治していく治療法です。また、副作用はほとんどありません。
鍼灸治療は歴史が長く、律令時代に中国から伝来し今現在まで伝統の治療法が脈々と受け継がれています。
今では、大学病院などの医療施設でも鍼灸治療を取り入れていて、薬が効かない難治性の疾患に対して鍼灸治療を行っている施設が数多くあります。
6-3-1.鍼灸治療の治効理論
鍼灸治療の治療効果のメカニズムは解明されていないことが多くありますが、中には科学的に解明されているものもあります。それは以下の通りです。
・鎮痛効果
鍼灸治療を行うと人間が本来持っている痛みを自ら抑える疼痛抑制機構のメカニズムが高まり、痛みを和らげる効果が期待されます。
・血流改善
鍼治療を行うと治療箇所付近の血管が拡張する軸索反射が起こります。
血管が拡張すると血流量が増え新鮮な酸素、栄養が運ばれ新陳代謝がよくなるので、筋肉の危機的状態から脱し発痛物質が産生されなくなります。
・免疫力の強化
鍼灸治療は鍼とお灸を使って身体のごくわずかな傷をつけ、その後の身体の様々な反応で身体を治していく治療です。わずかな傷でも身体はその傷治そうと、身体の免疫のメカニズムが働き強くなります。
その結果、身体の自然治癒力が高まり症状が改善されていきます。
6-4.頚椎ヘルニアで受けてはいけない治療
頚椎ヘルニアの方は整体やカイロプラクティック、リラクゼーションマッサージなど無資格者が行っている手技療法は受けない方がいいと思われます。
整体やカイロプラクティックは脊柱を矯正する手技なので、無理に脊柱を矯正しようとすると頚椎ヘルニアがさらに飛び出す可能性があるからです。
また、リラクゼーションマッサージは強く揉む傾向にあるので、傷んだ筋肉がさらに悪化し痛みが強くなる可能性があります。
頚椎の手技療法で神経、脊髄損傷の治療事故が増えているので注意してください。
7.まとめ
頚椎ヘルニアの原因と症状、治療についてお伝えしました。
頚椎ヘルニアの症状は手術が必要な場合を除いて、適切な治療を行えば2ヶ月から半年くらいで症状は緩和され日常生活に支障がないレベルまで改善されていきます。
ですから、頚椎ヘルニアがあると悲観なさらずにご自身に合った治療を見つけ、根気よく治療を続けてください。
この記事があなたの頚椎ヘルニア改善の参考になれば幸いです。
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