胸郭出口症候群
胸郭出口症候群の診察の流れと治療について
あなたは、洗濯物を干す、つり革につかまるといった腕を挙げる動作で、腕にしびれや痛み、肩や肩甲骨周辺にだるさや痛みが起きることはありませんか?
もし、痛みやしびれが起きていたらそれは「胸郭出口症候群」かもしれません。胸郭出口症候群って言われても、わからないことが多くありますよね。
今回は胸郭出口症候群の診察の流れと治療法についてお伝えします。
(胸郭出口症候群の原因と症状については、「胸郭出口症候群の原因と症状を解説します。」を参考にしてください。)
もし、あなたが、腕や手にしびれを感じたら、早急に整形外科や脳神経外科の診療所を受診してください。
診療所では、まずいろいろな検査を行います。そして、その結果から診断名が判断されます。ここからは、「胸郭出口症候群」と判断に至るまでの診察の流れについてお伝えします。
1.胸郭出口症候群と判断されるまでの流れ
まず、病院を受診すると問診の後、レントゲンなどの検査が行われます。
1-1 レントゲン
手のしびれや腕の痛みがある場合、頚椎の異常が疑われます。そのため、頚椎の正面、側方、斜め(撮らないところもある)などの方向からレントゲンを撮影します。
レントゲンでは、頚椎の変形はないか、骨棘は出来ていないか、骨と骨の間に隙間があるかなど骨の形を診ます。胸郭出口症候群のレントゲン画像の特徴は次の通りです。
●頚椎がストレート又は後彎して長く見える。
●正常な鎖骨の形はV字状になっているが、水平になっている。
●頚肋があるならば確認できる。
1-2 胸郭出口症候群の徒手検査
徒手検査とは症状誘発テストといい、ある検査動作をして症状が増悪した場合に、疾患があるのではないかと推測します。
次で示す徒手検査を行い陽性と出たならば、「胸郭出口症候群」ではないかと推測されます。
・Moriey test
鎖骨の上部、腕神経叢が通っている部分を圧迫すると、圧痛や前胸部へ放散痛が生じると陽性。
・Adson test
症状が現れている側に頭を後ろに傾けて回旋して、深呼吸をすると鎖骨下動脈が圧迫されて橈骨動脈(手首)の脈拍が弱くなるあるいは無くなるとと陽性
・Wright test
座った状態で両腕の肘を90度に曲げながら、外転、外旋させると、橈骨動脈の脈拍が減弱すると陽性。肋鎖間隙の圧迫を考える
・Eden test
胸を張り、両肩を下後方に引くと、橈骨動脈が弱くなるあるいは停止すると陽性。肋鎖間隙での圧迫を考える
・Roos test(3分間挙上負荷テスト)
Wright testの姿勢の状態で、両手をグーパーを3分間続けさせます。手指のしびれ、前彎のだるさのため持続できず、途中で腕を下ろすと陽性。肋鎖間隙でで腕神経叢が圧迫されるためである。又、鎖骨下動脈圧迫されていると、腕や手が白っぽくなります。
2.胸郭出口症候群の治療
レントゲン検査、徒手検査などを行った後に、同じような症状である、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、肘部管症候群、腕神経叢損傷、脊髄腫瘍などの疾患が除外されれば、「胸郭出口症候群」と判断されます。その後に、治療が始まります。
胸郭出口症候群の治療は、投薬治療、注射治療、リハビリ療法、手術の治療法があります。
2-1 胸郭出口症候群で処方される薬
胸郭出口症候群の時に処方されるお薬は次のようなものがあります。
1.鎮痛薬
痛みがある時に主に処方されるのは、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsという鎮痛薬の1種です。このNSAIDsは鎮痛の効果は高いのですが、消化性潰瘍、穿孔、胃腸出血などの胃腸障害、腎障害、アスピリン喘息など副作用があるのが難点です。
たくさんある鎮痛薬の中で効果の高いお薬はボルタレンなどの坐薬です。坐薬は胃腸に負担をかけることなく、薬剤が直接腸から吸収されるので効き目が早く高い効果が期待できます。
2.胃腸薬
胃腸薬は、鎮痛薬で起こる胃腸障害の副作用を防ぐために処方されます。
3.神経障害性疼痛緩和薬
神経障害性疼痛緩和薬(「ノイロトロピン」「リリカ」など)とは、神経が原因で起こる「ピリピリ」、「ジンジン」といった痛みがある時に処方されます。
NSAIDsなどの鎮痛薬を服用しても効果がみられない場合に処方される時があります。
3.ビタミン製剤
ビタミン製剤は、手のしびれがある方に処方されるお薬です。ビタミン製剤の中でもビタミン12系統のお薬がよく処方されます。
このビタミン製剤は、神経の働きをよくする栄養素がビタミン12なので神経の働きをよくする目的で処方されます。
5.筋弛緩剤
筋弛緩剤は、筋肉の緊張を緩和するお薬です。胸郭出口症候群は、首、肩周辺の筋緊張が原因で起きていることが多くあります。
筋弛緩剤で筋緊張を緩和して、症状を和らげる目的で処方されます。
2-2 胸郭出口症候群で行われる神経ブロック注射
鎮痛薬を服用しても痛みが改善されない時は神経ブロック注射をする場合があります。神経ブロック注射とは、痛みのある場所近くの神経周囲や神経内に局所麻酔を注入して、一時的に神経の興奮や炎症を抑え痛みを改善していく治療法です。
神経ブロック注射の種類は30種類以上あり、強化腕口症候群で行われる神経ブロック注射は星状神経節ブロック注射、腕神経叢ブロック注射、斜角筋ブロック注射です。
星状神経節ブロック注射と腕神経叢ブロック注射、斜角筋ブロック注射とも、とても難しく技術を要します。
ですから、神経ブロック注射をされる場合は、ペインクリニック学会専門医がおられて透視装置など設備がそろっているペインクリニックで治療を受けられると良いと思います。
2-3 胸郭出口症候群で行われるリハビリ療法
リハビリ施設のある診療所では、次のようなリハビリを行うことがあります。
1.頚椎牽引
頚椎牽引とは機械で間欠的に首を引っ張る治療法です。頚椎牽引療法は胸郭出口症候群の治療よく行われている治療法ですが、治療効果があまりみられないようです。時に症状が悪化する恐れもあります。
ですから、最近ではドクターの中でも頚椎牽引の有効性に疑問を持たれている方が多くなってきています。
2.電気治療
電気治療は、吸盤状のようなものを身体に貼り付け電気を流す機械と電気を身体にあてて温める機械があります。
どちらの機械とも筋肉の血流を促進させて、自然治癒力を高め痛みを改善していく治療法です。
3.温熱療法
温熱療法はお湯で温めたホットパックを患部にあて、筋肉を温める療法です。筋肉を温めて血流が促進させ、筋肉の緊張を和らげる目的で行われます。
4.運動療法
運動療法は筋肉の緊張を緩和する、悪い姿勢を改善することを目的に、首、肩甲帯にある筋肉のストレッチ、筋力強化を行います。
2-4 胸郭出口症候群で行われる手術
胸郭出口症候群で筋力低下や血管が常に圧迫されているなどの症状が重い時は、手術を行う時があります。手術内容は圧迫されている箇所で異なり次のようになります。
- 頚肋があれば頚肋を切除する。(頚肋症候群)
- 前斜角筋の切離(斜角筋症候群)
- 第1肋骨の切除(斜角筋症候群、肋鎖症候群)
- 小胸筋腱の切離(小胸筋症候群)
胸郭出口症候群で手術を行うのはごく希なケースです。手術を行っても、症状が改善されないこともあります。また、術後、組織の癒着などが原因で、新たな皮膚の引きつれやこり感、だるさといった症状で悩まされることもあります。
ここまで、胸郭出口症候群に対する病院での治療を主にお伝えしてきました。しかし、これらの治療は根本的な治療法ではなく対処療法であり、症状が改善されないケースも多くあります。
3.胸郭出口症候群を改善する鍼灸の深層筋治療
胸郭出口症候群が投薬や注射、リハビリ治療で改善されない時でも、鍼灸治療を行うと改善されることが多くあります。
それは、次のような理由があるからです。
3-1 鎮痛効果
鍼灸治療を行うと鍼やお灸の刺激が脳に伝わり、人間が本来持っている痛みを自ら抑える疼痛抑制機構のメカニズムが高まり、胸郭出口症候群の痛みを和らげます。
このメカニズムを使って中国では鍼で麻酔をかけ抜歯をしているところもあります。
3-2 血流改善
鍼灸治療を行うと、治療箇所の筋肉の血管が拡張する自律神経反射が起こります。この反射を「軸索反射」といいます。
組織の血管が拡張し血流が増大すると、新鮮な酸素や栄養が運ばれてきて新陳代謝が活発になり、炎症が起きて痛みを発している筋肉を和らげることが出来ます。
3-3 深層筋のピンポイント治療。
身体の深層にある「前・中斜角筋」、「小胸筋」などが緊張したために、胸郭出口症候群が発症されるとお伝えしました。
この筋肉の緊張というのは筋肉全体が硬くなっているのではなく、筋肉の一部が塊になって筋硬結が形成されている状態です。
筋緊張和らげるには、この筋硬結をいかにしてほぐすかが重要になります。
鍼灸治療は深層にある筋肉の筋硬結をピンポイントに当て治療し、ほぐすことが出来る唯一の治療法です。
4.まとめ
胸郭出口症候群の治療法をお伝えしました。胸郭出口症候群は筋肉の緊張や骨格のバランスの崩れが原因です。
このような症例の時、整形外科では投薬や注射、頚椎牽引といった対症療法しか治療方法はありません。不得意分野と言っていいでしょう。
そのような時に力になってくれるのが鍼灸治療です。鍼灸治療は筋肉の治療を得意としていて、薬や注射か効かない胸郭出口症候群でも功を奏すことがたくさんあります。
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